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2020年01月08日

Monthly 20年1月号《バブル崩壊から30年、機は熟した》

Monthly 20年1月号

『バブル崩壊から30年、機は熟した』

日経平均は1989年12月29日に史上最高値の3万8915円を付けてから、バブル崩壊を経て昨年2019年12月末で30年を経過した。昨年末の終値2万3656円は史上最高値から60.8%のところに位置する。(1月5日 文責太田)

 

日経平均は史上最高値の6割の水準

あれから30年、現在の日経平均は史上最高値の6割の水準にある。1929年の米国発世界大恐慌時のNYダウの暴落ですら、高値から25年で元に戻ったことを考えると、日経平均の低迷は先進国の中でも過去最長になる。なぜ、これほどまでに株価の修正に時間がかかっているのだろうか。

80年代終わりのPER(株価収益率)は60倍台まで上昇しており国際標準の14~16倍から大きく乖離していた。現在は14倍台で欧州の株式市場と同程度で、米国の18倍より低く、割安水準にある。PER60倍から国際標準である14倍までには、国際標準で判断する外国人の保有比率が高まり2000年代半ばにかけ割高感が修正されてきたのかもしれない。しかし、同時に個人投資家の株保有比率が激減したのも事実だ。1949年度に69%だった保有比率が今や2割強まで落ち込んでいる。この30年間、多くの日本人は長期株価下落の記憶からいまだに抜け出せないからでもある。例えば、今回、年末恒例の翌年の株価予想でも、ほとんどのアナリストは高値2万5000円が多数を占め、最高値でも2万7000円程度だった。昨年末の日経平均は2万4000円近辺だったから、 2万5000円はわずか4.2%の上昇、2万7000円で12.5%にしかならない(昨年ですら日経平均の騰落率は18.2%の上昇)。足元の国際情勢を鑑みても、また昨年8月以降の日本株の強さ、勢いからも、もう少し強気になってもよさそうなのだが。

筆者の経験則から専門家の予想は「まず当たらない」ことからすれば、2万5000円予想も悪くはない。90年代を経験した市場関係者は長期株価下落のトラウマから抜け出せないでおり、筆者が日経平均4万円(過去の高値に達する、ただし今年ではないが)説を唱えても、冷ややかな反応しか返ってこない。

 

半値戻しは全値戻し

「半値戻しは全値戻し」という相場の格言をご存じだろうか。半値戻しとは、相場が下落した後、反転して戻りに転じた時、下げ幅に対して半分程度まで戻ることを言う。例えば株価が1,000円から700円まで下落した後に、この下落幅300円の半分となる150円を戻す、つまり株価が700円から反発して850円まで戻すことだ。そして全値戻しは下落幅300円全てを戻す、つまり700円から元の水準1,000円まで戻すことを指す。

先述したように、日経平均の史上最高値は3万8915円。そしてバブル崩壊後の安値はリーマンショックの直後、08年10月に付けた6994円。下落幅は3万1921円、その半値は1万5960円。これに6994円を足すと、2万2954円となり、昨年末の日経平均終値2万3656円はすでに半値戻しを達成しており、全値戻しに向かっているともいえる。

この「半値戻しは全値戻し」は、一般的には相場の反発力の強さを強調したい時に使用されることが多い。株価が何らかの要因で下落しても、その下落幅の半分を戻すくらいの反発力があれば、いずれは元の水準まで戻る全値戻しの勢いや上昇力があるという解釈だ。この解釈によると半値戻しは買いのタイミングとなる。あるいは安値圏で慌てて売らずに保有しているほうが良いということになる。

ただし、もう一つは、半値戻しは一時的な反発に過ぎないという解釈もあることを付け加えておく。この解釈によると半値戻しが戻りのメドや戻り売りのタイミングとなる。これは上述の反発力の強さとは全く正反対の解釈だ。

どちらの局面かは株価下落要因と現在を比較判断

今の日経平均は、前者のように反発力が強いことを示す半値戻しなのか、それとも後者のように一時的な反発に過ぎない半値戻しなのか、どちらの局面なのかは、株価が下落した要因を考えてみると、全値戻しは可能と考えられる。バブルの最高値は明らかに60年分の成長を先取りしたわけだが、30年経った今、相互依存が深く絡み合う国際分業において、日本製品の希少性の重要性が如実になっている。米中貿易摩擦では、半導体設計における必須技術を提供するソフトバンクが買収したアームとの取引が停止されることにより、 ファーウェイの新製品開発は著しく困難になっている。

また、昨年7月安倍政権は半導体と有機 EL 生産に必須のフッ素系 2 素材(フッ化ポリイミド、フッ化 水素)とレジストの 3 品目の韓国に対する輸出優遇措置を撤廃した。元徴用工問題で韓国政府 に対応を促すのが狙いのようだ。中国と伍し世界最大級の半導体、スマホ生産国である韓国のボトルネックを、日本のサプライ(素材・部品・機械装置など)が抑えている現実が浮き彫りになったわけだ。スマホ、テレビ、パソコン、液晶、半導体などの最先端ハイテクの生産集積は、世界で唯一北東アジアのみに存在しているが、その理由は日本が大半のサプライを供給しているからだ。要(カナメ)は日本なのである。韓国・台湾・中国の製品は他国で代替が効 くが、日本のサプライはオンリーワンでそれができない。

希少性は将来の価格設定を有利にし、いずれ収益力に結実する。この30年間で半導体等での価格競争で負けた日本は、その土台をなす無数のサプライ領域で技術・品質優位の希少性、オンリーワンの地位を獲得してきたのだ。この希少性は5G、IoT 時代の製品開発でますます威力 を発揮する。日本の国際分業上の優位性は明白だ。 バブル崩壊から30年、その間、日本企業の世界での立ち位置が変わってきている。

韓国に対する措置で、7月2日付け米WSJ(ウォールストリートジャーナル)に「貿易に政治を絡ませる日本の決断は、日本の国家戦略の劇的なシフトを意味する。・・・日本は第2次大戦後に主権を回復して 以降、ルールに基づく多国間国際システムの支持者として特に信頼できる存在だった。その 日本が旧来の体制の制約から抜け出したがっていることが示唆するのは―日本の観点から見ればトランプ時代は移行期でありー、一時的な幕あいの出来事ではないということだ。」(「Trump Goes to Japan and Japan to him」ウォルター・ラッセル・ミード 氏)との論説を掲載している。 WSJ紙が言うようにこれが歴史的なものか否かは、即断できない。日本政府が政治的不満を経済的制裁・恫喝によって解決しようとしたのは戦後初めてであり、日 本が主張し始めたと、対外的に受け取られることは必至であろう。

このように政治的意味合いも大事だが、差し当たってより重要な事実は、日本が相手国を経済的に恫喝できる立場を確立している、ということである。日米貿易摩擦、長期円高以降、日本は海外(特に米国)からの経済 恫喝と圧力に屈し続けてきた。その日本がハイテク技術において、圧倒的バーゲニングパワー(対抗力、または交渉力)を確立しているのである。いずれ市場はそのことの持つ大きな意味を思い知らされるであろう。 30年前と現在では、国際分業のなかで、日本のサプライはオンリーワンの地位を占めるようになったのだ。

 

今年は株高に間違いない

年初のテーマとして、今年の株価について考えたい。筆者は株高方向に振れると予想している。その理由は、東京五輪やインバウンド需要、景気といった要因は予測可能な情報であり、多くはおおよそ現在の株価に反映されており、敢えて指摘するほどのことはない。さて、おおもとの問題として、短期的に日本の株価を決めているのは主に米国の株価であり、次いで為替レートであることを確認しておこう。国内の景気のように、われわれの生活に深く関係する重要な要素が目下のところ、日本の株価に対して大きな影響力を持っていないと言っても差し支えない。日本株は少々前の新興国市場のような価格形成になっている。日本の株式市場に関わる者としてはあまり面白くないが、当面の理解としては、まずこの事実を受け 入れる必要がある。

さて株高の理由は、米国が先導して、資本市場が次のバブルをつくる金融的なプロセスにあると思っているからだ。したがって、日経平均2万7000円を最初の目標としておく。

昨年終盤の内外の株価は、米国連邦準備制度理事会(FRB)が三度にわたる利下げを行ったことで、米国の株価が回復したことに連動して動いている。FRBが利上げに動いていた2018年は株価が調整に入った。ところが、19年になってFRBが利下げに転じてから、もう一段大きなバブルをつくるプロセスに入ったようにみえる。

米企業社債発行と自社株買いはバブルか

まず、金融緩和による国債利回りの低下を背景に、米企業はせっせと社債を発行している。そうして得た資金で自社株を買う。企業の経営者が自社株を買うのは、ストックオプションを持っている自分自身がもうかるからで、確たるモチベーションがある。また、株価を下げないことが、経営者の地位を守る上でも重要であることは言うまでもない。

米国では、信用度が低く、質が良くない債券発行が増えているが、こうした企業の負債を証券化したローン担保証券(CLO)によって個々の企業の信用度がごまかされることで、資金調達が可能になっている。かつてサブプライムローンを証券化した債務担保証券(CDO)と同じ手口だ。

年間2兆ドル規模と過去最高の発行ペースとなっている米社債市場。世界的な金融緩和で企業によっては、ほぼ0%の金利で社債発行が可能になっている。低コストの社債で調達したお金で自社株買いをする企業が米市場では多い。自社株買いは「最も期待される相場の下支え」なのだ。

しかし、最近米国では、非上場のベンチャー企業を指す、いわゆる「ユニコーン」と呼ばれるような新興企業の株価が上場後、低迷するケースなど、幾つかのほころびはちらほらと見え始めている。しかし、大勢として次のバブルをつくる流れにあるので、内外で割高にみえる状況が形成されるまで、株価が上昇する公算が大きいのではないか。「金融的な状況だけ」から判断すると、2万7000円が高過ぎるのか、低すぎるのかは分からないが、方向はこちらだろう。

米FRBは2020年にまた利下げをしてくれるのか。あるいは、米中貿易摩擦は無事に収まるのか。共に「警戒」すべき材料ではある。ただ、FRBについては、株価が下がった場合に利下げでこれを反転させる余地があるということだ。また、米中貿易摩擦は簡単に片付かない問題だろうが、部分的に一時休戦したり、休戦をにおわせたりするだけで株価の下支え効果があることを、トランプ政権は既に十分学習済みだ。

日本の自社株買いと市場構造の変化

日本企業の株価は、株価収益率(PER)や配当利回りなどの水準から見て、現在、バブルであるようには思えない。しかし、米国企業の社債と株価のバブルが崩壊するような事態になれば(バブル崩壊は認識してもすぐには来ない。今年バブル崩壊はないだろう)、日本の株価も大きく連れ安すると考えておくことが妥当だろう。

米国の経営者が大好きな自社株買いに、日本企業も追随し始めてはいるものの、まだまだ周回遅れの状況にある。19年度の上場企業の配当と自社株買いの合計は25兆円に達する見込み。特に自社株買いは、13年度1.9兆円だったのが今期9兆円と5倍近くに膨らんだ。日本企業の自社株買いが膨らんでいるのは、株式持ち合いの解消も背景にある。当面は持ち株の放出と自社株買いがセットで進むだろう。景気後退や減益局面でも自社株買いで1株利益であるEPS(自社株買いで株数が減少することで、EPSは伸びる)を伸ばし続けてきた米国株に近づいていることになる。

もうひとつの市場構造の変化は、PBR(1株純資産倍率)が投資尺度として効き始めてきたことだ。昨年8月日経平均が2万円近くまで下落したとき、PBRが1.01倍になると、株価は切り返してきた。「1倍割れ」は解散価値割れともいわれ、東証でも1倍割れ銘柄は減少傾向にある。

EPSが底上げされ、下値のめどとしてPBRが有効になった恩恵を受けるのは、長期投資家になる。変動率が大きく、右肩上がりの成功体験が少ないため、長期投資家は育ちにくかったため、日本株を手掛ける外国人投資家は短期筋が多く、長期投資家は肩身が狭い思いをしてきた。米国株の強さの背景には、個人の自国株による資産形成がある。日本にもNISAやiDeco等、個人の資産形成ツールが揃ってきた。こうした投資家層の変化も中長期的には日本株を強くすることになるだろう。

市場構造の変化がかみ合い始めたのが昨年なら、今年は歯車の回転をいかに加速させるかが課題になってきた。2020年は、日経平均が89年末に付けた3万8915円を目指す「全値戻し」のスタート年となるだろう。

 

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